肌を合わせれば相手のすべてがわかるというが。
 わかりたくないこともわかってしまうのは難点だなと思いつつ、自分の腰を掴んで後ろを向かせようとするルガジーンの頭をぽんぽんと撫でてやる。途端に口から出てくる愚痴の嵐にはもうため息しか出てこないが、ここは耐えるしかない。
 天蛇将様も、時にはガス抜きがしたくなることもあるのだ。
「…………先月のアルザビの修繕費が多すぎるというが、先々月より金額は減っている。それなのに宰相は、ここは減らせる、ならばここも減らせると……」
 それは本当だろう。
部下の扱いや戦術では優秀なルガジーンだが、補給のやりくりや、国家的な戦略についてはまだまだ経験が足りないというのは事実で。傭兵たちにだって理由があって破格の条件を提示しているが、一番削ることができるのは実はそこなのだ。それをルガジーンに伝えても、命をかけている傭兵たちに報いるには……とお得意の説教が返ってくるのがわかっているのでもう言わないことにしているが。
 世の中所詮金と権力を持っている者の勝ちである。
 互いに裸で寝台の上で語る話題ではないと思うが、ここはルガジーンにもう少し賢い大人になってもらうわなければならない。腕の中に彼を抱き寄せると、汗で濡れた体に黒髪が張り付く。その感触のくすぐったさに軽く顔を歪めると、タイミング良くルガジーンが胸にそっとキスを落としてきた。
 突然の刺激にびくりと震える体が、逆に抱きとめられる。
「ルガジーン…………?」
「私はキミのこともあの子のことも心配だ、それはわかっていると思うが」
「それが…………っ、どうしたというんだ?」
 火照ったままの体をからかうような愛撫を続けるルガジーンの顔には、笑顔が張り付いたまま。しばらくは素直に身を任せていたガダラルだったが、いつまでたっても表情が変わらないことに気がついて、逃げだそうとしたときにはもう遅かった。
 自分より遙かに大柄な体にしっかりと上に乗られ、おまけに関節まで押さえ込まれている状況。ルガジーンの笑顔は、もはやわざとらしい程の域に達している。
「先日、深夜に宰相の部屋に行ったのは本当なのか?」
「ああ、呼ばれたからな」
「…………それで?」
 嘘をついて逆に勘ぐられるのも嫌だったので正直に答えたのだが、ちょっとどころじゃなくルガジーンの声が冷たいのは気のせい、ということにしておこう。
 いや、しておきたい。
「それでも何も……話をしただけだ、妙な誤解をするな」
「私が君を疑うわけないだろう、それとも後ろめたいことをしてきたとでも」
「いい加減にしろ、散々その件については言っただろう」
「言葉で納得できるのなら、こんなことをするつもりはない」
「こ、こんなこ…………と……?」
 押しのけて逃げようと伸ばした手すら片手で簡単に押さえ込まれ、もう今日は完全敗北だなと半分あきらめたガダラルの耳に入ったのは、一番今聞きたくない言葉だった。

「子作り」

 先日ナシュモで刻まれたトラウマにも近い出来事が、脳裏に一瞬にしてよみがえる。朝まで寝かせてもらえなかったとか、腰が立たなくてルガジーンに支えてもらいながら船に乗ったとか。
 人生最悪の一日といっても良かったのだが、それ以上に嫌だったのが。
「あまり大声を上げるとあの子が起きてしまう、静かに」
「静かにじゃないだろう! 貴様最初からこっちの方向に持って行くつもりだったな、この絶倫エルヴァーン!」
「一度や二度増えたからと言って、もう生娘でもないだろうに……」
「俺が生娘だったら手加減するのか、貴様は!?」
「喜んで丁重にいただかせてもらう」
 心底嬉しそうなこの絶倫変態エルヴァーンの笑顔だった。
 イライラしたときにぶつける対象が欲しいのはわかるが、この生粋の肉体労働者の体力と精力に朝まで翻弄される方はたまったものではないのだ。息を継ぐ暇もなく揺さぶられ、涙を流して懇願しても、その涙さえ舌ですくい取られる始末。
 相手がすっかり満足して寝入った頃には、神経が高ぶりすぎて眠れなくなっているのもいつものことで。
この変態絶倫好色エロヴァーン(少し単語を追加した)を満足させ、自分の安眠を確保するにはどうすればいいのか。
 ガダラルの悩みは尽きないのだが、なにはともあれ。
「…………一つ言わせろ……」
「どうした?」
「ウキウキしながら縄だのなんだのを用意するのはやめろ!!!」
 あちこちから色々教わってきて、新しい領域に突入しようとするのだけは本気でやめて欲しい今日この頃であった。






 ルガジーン曰く、ガダラルが本気で嫌がるときはファイガを目の前で炸裂させるので、こんな軽い拒否はあくまでプレイ一環、とのこと。
 微妙な性生活でのすれ違いを続けながらも、とりあえず二人は仲良しです。