お婆ちゃま、お元気ですか? チニニは相変わらず元気です。アトルガンはとても暑くて、毎日毎日水浴びばっかりして暮らしています。こんな時期は外に出たくないので、お部屋にこもってガダラルさんから借りた本ばっかり読んでいます。コーヒーをブリザドの出力を落として思いっきり冷やしてから、お部屋に持って行って本を読むのがこの頃一番の楽しみです。お仕事をさぼっているわけではないのですが、この間ガダラルさんにコーヒーを飲んでいるところを見つかって、子供にコーヒーは早いって怒られました。 背ばっかり大きいので、私は大人として扱われることが多いんですが、ガダラルさんだけは私にいつも子供のくせにとか子供は黙ってろとか言ってきます。集落を出てから子供扱いされたことがほとんどないので、嬉しいようなむずむずするような変な気持ちになります。 ガダラルさんは魔法について、色々なことを知っています。 私のカーバンクル君がすごく気になるみたいで、暇があったら私から取り上げて色々いじっているみたいです。アトルガンでは召喚魔法があまり発達しなかったので、実際に見ることができる機会は貴重なんだそうですが。 カーバンクル君が毎回落書きとかされて帰ってくるのは、どうしてなんでしょう…… 未熟な召喚士の私ではカーバンクル君しか見せてあげられないんですが、いつかもっと大きな方たちを召喚できるようになりたいものです。 あ、この手紙の本題に入りますね。 この間お仕事しているガダラルさんにところにコーヒーを持って行ったときのことです。ガダラルさんのお部屋はいつも綺麗に片付いていて、私が掃除するところはほとんどないので普段はあまり入りません。本が山ほどあるんですが、ほとんどが綺麗に棚に入っていたり、または隣の部屋にある書庫にしまわれたりで、今読む本以外が机の上に置かれていることはないはずなんですが。 珍しく床の上に本が数冊置いてありました。 ガダラルさんは床の上に本をわざと置くことが時々あるんですが、そういうときはもっと派手に本を散らかすので、変だなあと思ってその本を手にとってみました。真面目にお仕事しているガダラルさんは気がつかなかったのか、それとも私が本を読むのは当たり前みたいになっているので気にならなかったのかはわかりませんが、その本には青魔法について書かれていました。 青魔法って言うのはアトルガン独特の魔法って言えばいいんでしょうか? 魔物の力を自分の内側に取り込んで使う魔法の近い技術のことです。そういえばガダラルさんの家には色々な魔法について書かれたありますが、青魔法について書かれた本を見るのは初めてでした。ガダラルさんが青魔法について勉強する気になったのかなと思って、夕ご飯の時に聞いてみたら、ガダラルさんが珍しく怒ることなくお話ししてくれました。 青魔法は魔物の力を使うのではなく、自分の一部を魔物に明け渡して使うものであること。精霊の力を借り共に戦う黒魔法や、契約に基づいて異界から力を呼び込む召喚とは根本的に異なること。そして、一度青魔法を志してしまえば、もう元の体には戻れないと言うこと。 詳しいことは書きませんが、ガダラルさんが体験したことを交えながらの話を聞いていたら、辺りはもうすっかり暗くなっていました。家の外の暗い場所から、怖い物が家の中に入ってくるような気がして思わず小さくふるえてしまった私に、ガダラルさんは最後にこんなことを言ってくれました。 魔法というのは精霊と遊ぶことで、それさえ忘れなければ怖い物など何もないって。 お婆ちゃまも昔そんなことを言ってくれましたよね。 なので、ガダラルさんにお婆ちゃまみたいだって言ったら、ガダラルさんに今日初めて怒られました。優しくお話ししてくれるガダラルさんも素敵ですが、やっぱりガダラルさんは怒っている方がいいです。 それじゃあお婆ちゃま、またお手紙しますね。 |
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