「Dreaming Continue」









 丁寧な看護と効率的すぎる魔法での治療によって、体が急速に回復しているのは良いことなのだが。砕けていたものを無理矢理接合した骨や、開いた古傷が時折全身を焼くような痛みを訴えてくる。
 その日も痛みと喉の渇きで目が覚めると、消えそうな程細い月からの光だけが室内をほんのりと彩っていた。本の一冊も存在しない、簡素きわまりない室内の家具が、自分がまだ家に帰れていないことを教えてくれる。
「まだ夜中か」
 小さく呟くと、何とか動く手で額の汗を拭った。
 わずかに体を動かすだけで関節が軋み、細く息を漏らすことしかできない状況。時間はかかるが己の力で食事を口にすることができるようになっただけ、回復してきているのはわかるのだが。怪我というのは体が微妙に動くようになってきた頃が一番憂鬱になる。そろそろ体を動かしたいと思うのに、肝心の体の方は動くことを拒否するのだから。
 大きく息を吸い込み、痛みの波に備え体を硬くしながら、緩慢な動作で体を起こす。
 枕元においてあった痛み止めの薬湯を口にすると、苦さと共にもう少しで痛みが薄れてくるという安心感がわき上がってきた。意識が戻った日よりは痛みも、動かない体への苛立ちも和らいでいるが、それでもこの薬湯は欠かせない。効くまで時間はかかるが、眠ることができる程度には痛みを和らげてくれる。
 それでも最初の数日よりは飲む回数も、量も減っていた。
後数日たてば、これに頼らなくても眠ることができるようになるだろう。そう思えば渋さと苦さが自己主張しながら同居しているこの味にも多少は愛着が。
「……苦」
 やっぱりまずいものはまずいとしか言えなかった。
口の中に広がるたとえようもない味わいを和らげるために、見舞いの品の中に何か甘い物でもなかったかと、暗闇の中薬湯のおいてあった周辺に手を伸ばすと、小さな瓶がわずかに震える指に触れた。
 中に入っていたのは小さな飴玉、確かミリが持ってきてくれた物だっただろうか。
最初に手の中に転がり込んできた赤く丸い固まりに一瞬体が固まるが、少しの躊躇の後まだ器用に動かない指でそれを口に運んだ。あのときのルガジーンの目を思い起こさせる赤を、目が覚めてから毎夜夢でうなされる程には苦手になってしまっていた。
 今度ラミアとやり合うときに、数千倍にして返してやると目が覚めると毎回思うが、はたして自分はどんな夢を見ているのだろうか。赤く凄惨な悪夢、というイメージは残っているのだが、夢のかけらすら思い出すことができなかった。
 甘さが口の中を支配していく感触、消えていく苦さと夢への恐怖感にほっと息を吐きながら、改めて部屋の中に目をやった。
 自分のにおいも痕跡も、染みついていない場所。
 あくまでも癒し、そして送り出すだけのここで長逗留するのはもう3度目になるのか。最初は捕虜交換で戻ってきたとき、そして二度目はつい先日。命に関わるような肉体の損傷が原因というのは、今回が最初ということになる。
 さて、後何度ここに来ることになるのやら。
 生きてたどり着けるだけまだましだなと考えつつ、窓の外をほのかに彩る月の明かりを静かに浴びる。このまま寝付いてしまうにはもったいない、柔らかく暖かさすら感じる輝き。
 それを一身に浴びる、闇を切り裂くような鋭く尖る白い花弁を誇る花々。
 日頃は花などまるで興味はないのだが、刃を思い起こさせる汚れのない美しさには、多少惹かれる物がある。
 強く汚れのない彼を思い起こせるといった方がいいか。
 時間を無理に作ってこまめに顔を出してはくれるらしいが、今回の事件の後片付けで奔走しているルガジーンとはあれから全く話ができていなかった。目覚めると枕元に新しい見舞いの品が増えていることと、ほかの見舞客が彼が来ていたと教えてくれる。それ以外で、彼の存在を確認することができない現状は、少々どころではなくかなり不満であった。
 また一人で色々抱え込んで、落ち込んでいるのだろう、あの真面目馬鹿は。
 貴様のせいじゃないというのは簡単だ、だがそれでは逆効果にしかならず。果たして何を言ってやれば彼にとってわずかな救いになるのか、苦痛と動かぬ体に苛つく日々を送っている自分にはわかるわけがない。わからないなら話し合えばいいというのは今回の件で学んだが、話し合うべき相手と出会えないというのがまず問題であった。
 手を伸ばせば肩が引きつり、足を曲げれば全身が焼けるような痛みが走る。
月明かりを吸い込んでほのかに光っているようにすら見える、あの白い花でも手元にあれば少しは心慰められるのだろうが。まあそれは次にルガジーンが来たときにでも頼んでみるとしよう、目が開いている自分と顔を合わせたらきっと硬直してしまうであろう彼の緊張を解くためにも、多少の無理難題を突きつけるくらいがいいのだから。
 ルガジーンにやらせることリストを頭の中で作成していると、いつの間にか痛みが全身を刺すようなうずきから、さざ波のような柔らかい物へと変化し始めていた。これなら眠れるだろうと天井を見続けていた目を閉じると、あっという間に意識が薄れ落ち始める。
 次こそは夢の内容をしっかりと覚えていてやる、そう誓い小さく拳を握りしめながら眠りに落ちていった。 








一陣の風が常に流れる赤い世界。
 赤く染まる大地に、己の脇腹から流れ出た血が吸い込まれていくのを見ながら、ガダラルは指についた血を衣服になすりつけた。口内に溜まった血を拭っていると、すぐに指先が血まみれになってしまう。
 
 赤い大地。

 赤い空。

 そして、目の前にたたずむ赤い影。

 苛立ちのあまり足下を蹴ろうとしたが転がる石すらも紅玉のように赤い。触れるだけでこの赤が自分にも染みこんでくるのでは、一瞬そんなことを考えてしまい蹴るのをやめた。そんな自分の様子がおもしろかったのか、目の前の赤い影が小刻みにふるえる。
 性格のまっすぐさを現したかのような形の良い鼻梁としっかりとした首筋。鎧に包まれた長身は、肩から腕にかけて剣を振るうための逞しさを十分に兼ね備えていた。その手にある二つの刃を持つ剣に、今まで何度救われてきただろう。
彼が本物であるならば。
 血にまみれたような影となり、自分に向けて笑いと侮蔑を隠さずに襲いかかってくる存在が、彼であるはずがない。ラミアに魅入られようが、何をされようが自分に対する思いを捨てなかった程の一本気な馬鹿なのだ、あの男は。
「畜生……」
 とぼやいてはみるが、鎌すら持たせてもらえず目の前で炎を炸裂してやりたくとも、詠唱を始めた瞬間に喉元に向かって刃先が踊るように近づいてくるだろう。
「畜生」
 もう一度だけそう口の中で呟く。
 ルガジーンと同じ姿をしているだけでも気にくわないのに、あのアルゴルもどきで斬られた傷は必要以上に血を周囲に振りまき、血を吸った大地はますます赤い色を濃くしていく。さらに言えば、この夢から脱出する方法が本気でわからない。
 そう、目が覚めたらすべて忘れているというのに、夢の中にいる今の自分はここが夢であり脱出する方法がないことをしっかりと理解していた。頬と額に張り付く髪がうっとおしくとも、だらだらと流れ続ける血が止まらなくとも、これは夢。
 それにしても厄介な夢だ。
夢と認識できるが、夢の中のダメージは確実に現実の自分を死に向かって追い込んでいき。おまけに目が覚めると何も覚えていないのだから、手の打ちようがない。
 それに相手にあの姿をされると、なんとなく、なんとなくだがやりづらいというか。あの時の瞳の色と同じ赤い世界が、体と心を恐怖で縫い止めてしまっているのだろうが、それ以上にガダラルの動きを止めているのは、目の前にいる赤い『彼』の存在なのだろう。
 別な存在、自分を滅そうとしている存在だとわかっているのに。
「………………」
「……チッ、鬱陶しい奴だ。言いたいことがあるなら口で言え!」
 休憩はそろそろ終わりと言いたげに、赤い影は剣を構え直す。
 あくまでも自然に、だがあらゆる状況に対応できる構え方は彼そのものだった。剣の柄に小指を強めに絡め、人差し指を遊ばせ気味にしておく独特の持ち方。小指が折れるのでは、と昔冗談めいて聞いたことがあったが、人差し指に負担をかけすぎない事を追求していくとこういう持ち方になったと話してくれたことがあった。人差し指と小指にかける重心をその都度換え、剣の軌道を予想されるものとは微妙に変えることで相手が剣筋を読みにくくなる、そうとも言っていただろうか。
 実際に相対してみると、確かに非常にやりにくい。
 先程も大きく足を前に出し、ただ横に凪ぐだけの一撃がガダラルの脇腹を正確に捉えていた。切っ先の動きを読み、体をひねればかわせると思った瞬間に、剣の先が一気に伸びてきたのだ。
 そして今も。
 無言のまま動き始めた影の足の複雑な動きと、手元で変わる剣先の角度の動きに翻弄され、ガダラルはあっという間に追い詰められ始めていた。
 詠唱を始めようとすると喉元に、せめて一発ぶん殴ろうとすると上半身に、戦いの呼吸を読み切ったその動きには一切の無駄がない。基本的には魔法を絡めての戦いを得手とするガダラルはわずかの反撃すら許してもらえない上に、相手の望む動きをさせられているような気すらしてくるのだ。おまけに、あっちは剣を持っていてこっちは素手というのは、反則以外の何物でもない。
 脇腹からの痛みで呼吸がどうも落ち着かない、その上胸の奥でじりじりと燻るものが戦いに集中させてくれないというか。ちょっと間違えれば死んでしまうかもしれないという状況だというのに、目の前に広がる赤は意識を乱していく。
 息を整えながら後ろに体を引くと、剣が腹部を追いかけてきた。
「しつこいっ!」
 反射的に受け止めようとして手が前に出るが、その手すら、ぎらりと光る刃の餌食となりそうになる。あわてて手を引っ込めると後退するしかなかった体のバランスが崩れ、一気に刃が懐に入り込んできた。
 このまま腹部を切り裂かれるのか、刃が腹部を貫通するのか。
赤い影、その顔は世界と同じ色合いの靄に包まれよくわからない。だがキスをするときに邪魔だと毎回思う鼻筋の下にある空洞が大きく形を歪め、そこに込められているのが嘲りであることに気がついた瞬間。
 後ろに退いて刃から逃げることよりも、その軌道をそらすことよりも。


 ただ一人の名を呼ぶことだけを優先した。




「ルガジーン! さっさと来い、この馬鹿野郎!!!!」


 ここは夢の中だ、来るわけがない。
 そんなことくらい子供でもわかる。が、やることなすことそっくりなくせに、嫌らしい笑い方をする偽物が存在することを許したくなかった。こんな奴に夢の中でさんざん傷つけられ、蹂躙しつくされるらいなら、たとえ会うことがかなわなくても本物の名を最後に呼びたい。
 このような命の危機ともいえる状態の時は、もっと有意義なことをするべき。わかってはいるが軽いといえば軽いこんな思いこそ、人にとって案外もっとも大事なものなのかもしれない。
 馬鹿なのはわかっているが、ここは自分の夢。奇跡のような大それた願いだって叶うだろう。

 その証拠に。

 自分を庇うかのように唐突に眼前に現れた影は、ガダラルがよく知っている、だが下卑た笑いなどしない彼だったのだから。「遅くなった」
「遅すぎだ! 俺を殺す気か!」
「……間に合ったのだから、あまり責めないでくれ」
 赤い世界を切り裂くかのように。
 白くほのかに輝くアルゴルが、しっかりと血の色の剣を受け止めていた。膂力は完全に互角なのだろう、こちらに顔を向けてほほえむルガジーンの肩は堅く強張りつつ、時折力を込めるために強く震えている。
 味方を安心させるかのように力強く笑い、敵と認めた者には己の全力を持って立ち向かう。守るべき者の心も体も守り、相対する者には最大限の礼をもって戦いを挑む凛々しき騎士。
 それがガダラルの信頼する、背を預けるべき存在と認めた男である。
「少々やりづらい相手だな……ガダラル」
「なんだ?」
「頼む」
 間断なく襲いかかってくる相手の剣を受けきり、その大きな背をガダラルに向けながら、ルガジーンは短くそれだけを伝えてきた。それだけ言えばガダラルは自分の意図を完全実行してくれる、そう信じているから彼はそれしか言わない。
 そしてガダラルもただ、
「わかった」
 と頷くだけでルガジーンが望む行動を行い始めた。
 この赤い世界そのものを吸い込んでしまうほど大きく息を吸い、自分の体内の流れを整える。息が全身を巡るのと同意に、指先までに精神の流れが浸透していった。水のようにとらえどころのない剣筋が、二人の騎士の間でぶつかり合っている。その音すら自分の中に取り込み、静かに力を集中させるための言葉を紡ぎ始めた。
 広げた手の中に、徐々に広がり始める金色の炎。
 小指の先程の灯火が、濁った赤に染まった世界を焼き尽くす金色の刃へと。言葉が炎を育み、意志を与え、そして破壊するための純粋な力へと導いていくまで、ガダラルはただ炎を愛おしみ続ける。
 炎に煽られてなのか、周囲の空気が急激にざわめき風を生み始める。淀み停滞していた世界に生まれた風は、ガダラルとルガジーンの髪を優しく揺らし。科戸の風としてガダラルを守る黄金の蛇の様に周囲をうねり始めた炎を更に強めると、己を生み出した主の声をあまねく全てに届けるために更に清らかさを増していった。
「……ル……」
 ルガジーン、そう呼ぼうとして口をつぐむ。
 呼ぶ必要などない、彼はこれから先だって自分が呼ばなくても側に来るだろうし、自分はそんな彼に向かって毒づきながら内心喜び続けるのことは決まっている。
 だから体から流れ出る血潮も、それが生み出す痛みも、気にする必要はない。
 気合いの声と共に、解放された炎はガダラルを苛んできた赤い影に向かうことはなく。ガダラルの血を今もなお吸い続ける大地に、濁った紅の空に。

 そして世界全てを炎で包んだ。

 飴細工よりも脆く、簡単に解け崩れていく紅の世界。
 人の体など簡単に焼き尽くす程の炎を生み出したはずなのに、黄金の輝きは激しい熱ではなく柔らかい暖かさを周囲に振りまいていく。
 視界全てが黄金に染まり、一体何が消え去ったのかわからない世界。
「ルガジーン、そっちは終わったのか」
「ああ」
 声と共に、腕に暖かい物が触れてくる。
 視界に広がる黄金は彼の姿を写してくれない、彼のぬくもりも金色の炎の暖かさには劣ってしまう。
 だが彼は自分に触れてくれてる、側にいてくれている。
「今度は、目覚めてから会いたいのだが」
「当たり前だ、さっさと体を治して仕事に戻るぞ、俺は」
「そうしてくれると本当にありがたい……書類が溜まりすぎているのでね」
 額と頬に触れていったのは彼の指だろうか。
 どうせ夢なら甘えてしまえと、目の前にあるであろう彼の体に腕を絡ませ頬を押しつけると、背中に触れた感触が体を包み込んできた。
 黄金の炎がこの世界を焼き尽くし、ガダラルの意識をも消し去るまでの短くて長い間。

 限りなく我が儘に近い要望を伝えながら、久しぶりに感じられた大事な存在の感触を、ただ味わい続けることにした。













 枕元には刃を思わせる鋭い花弁を誇る花々。
 柔らかい朝日の中、硬い表情で眠り続けるガダラルの枕元に彼がいるのはもうお約束になってしまっていた。夜遅くまで今回の事態の後処理を行い、朝方ガダラルの寝顔を見にここへ来てからまた終わりが見えぬ仕事へと戻っていく。
 彼は黙々と己の仕事をこなし、日に日に状態が悪化していくガダラルを見守る時間だけは死守する彼に、ミリは尊敬を通り越してこの男は馬鹿なのでは、と思い始めていた。
 やってしまったことはしょうがない、それの償いをするために身を粉にして働くのもいい。だがそれと自分の体を追い込むのとは話が違う。ほとんど休むことも眠ることもしていない上に、一晩中ガダラルの付き添いなんてしていれば近い将来確実に過労死してしまう。
 そろそろ鈍器でぶん殴ってでも休ませなければと、かなり気合いを入れてルガジーンを殴りに……いや休ませに来たのだが、今日の彼はかなり様子が違っていた。
 ガダラルがほとんど動かずに眠るベッドの横、簡単に言えば床に毛布を敷いてそれにくるまって寝ていたりしている上に、ミリが横に来ても気がつかない始末。足で蹴って起こすのはさすがに悪いと思い、体をかがめて体を揺すると、わずかな間の後ゆっくりと目を開けた。
 眠っている時邪魔だったのか、ほどかれている髪が肩に散らばっている。
「ルガジーン……どしたの?」
「迎えに来てくれたのか、ありがとう」
「いや、そうじゃなくて」
 なにやってんの、というかなんでそんな所で寝てるの?
 と聞きたかったのだが、それより先に聞かなければならないことがたくさんあるのでまずは先にそちらを優先することにした。
「少し眠れたみたいだね」
「ああ、よく眠れた」
「ガダラルも顔色良くなってる。昨日は今にも死にそうな顔してたのに」
 床の上でようやく体を起こしたルガジーンを避けて、ベッドで眠るガダラルに目線をやる。
 ここ数日のガダラルは、顔色が悪いを通り越して死人のようだった。あらゆる手を尽くしても状態が悪化しているという話はなんとなく聞いていたのだが、柔らかそうな象牙色の頬も、朝日を浴びて赤みを増す髪も、昨日と同じ人間とは思えない程に回復していた。
 ルガジーンの方も昨日までの不調ぶりはどこへやら、口元に浮かぶ穏やかな笑みときびきびとした動作は、ちゃんと休息をとったことをミリに教えてくれた。病人のベッドの脇で眠って回復できるルガジーンもたいしたものだが、こんなに大きな男が下で寝ていてもまだ気がつかずに寝ているガダラルの方がよっぽどの大物。
 まあ病人兼怪我人に気がつけというのも無理なのかもしれないが。
「ところでミリ、急用ではないのか?」
「え、ええっと……ガ、ガダラルの様子を見に来ただけ」
「そうか」
 まさかあなたを無理矢理休ませるために殴りに来ましたとはいえず、作り笑顔でごまかすと、再度ミリはガダラルに目をやった。
 硬い顔はまだ変わらないが、一晩で容態がここまで落ち着くとは思わなかった。
 「もう大丈夫」
じっとガダラルの顔を見続けていると、ルガジーンが唐突にそんな言葉を呟く。
 手首に巻いてあった紐で髪を整え、軽く鎧下の皺を整えているルガジーンは至極満足そうであった。己の存在全てを誇っているかのように、その一つ一つの動作に自信が満ちあふれているのは、ミリの見誤りではないだろう。
 自分のいない間、眠るガダラルとルガジーンに何かあったのか。
 男同士の関係なんていうものは複雑なようで案外簡単、以前ザザーグがそう言っていたことをふと思い出すが。複雑なようで簡単な絆が、なにか奇跡を起こしたとこういう時は考えるべきなのだろうか。
「そろそろ私は出るが、ミリはどうする?」
「え、まだ時間あるよ?」
 優しく穏やかな物腰、その裏に隠された優秀な騎士としての力。
 すらりと伸びる見栄えの良い長身を誇るかのように立ち上がり、ルガジーンは最後に一言だけ口にすると、ガダラルの方を見ることなく部屋を後にした。


「頼まれたことが山ほどあるのでね、起きてくるまでにやっておかなければ」








 夢か現か、それとも幻か。
 読んだ人がてきとーに解釈すると言いと思う的手抜き短編。あとルガさんの剣の持ち方は、知り合いがこういう持ち方をしたら師範に怒られたという持ち方そのままです。礼節の道である剣道と勝つためなら何やってもいい剣術だと、色々違うということだそうで。でも確実に指を痛めるそうです、やめたほうがいいらしく。

 まあ、おまけの後日談はこんな感じでしたということで。